アンブレラ
残業疲れの残る仕事からの帰り道。公園の前を通り過ぎるとき、レモン色に眩しく光るベンチを見つけた。
このベンチを見て、ふと昔のことを思い出した。
角の少し欠けたこのベンチ。昔と何も変わっていない。
恥ずかしくて手さえ握れなかったあの頃だったけれど、何故かこの上ならギュッと握れた。
今日起こった全ての出来事。どんなに些細なことでも君は日記に書き記すように毎日
僕に話してくれたね。
今でも目を瞑ればすぐに浮かび上がってくる最高の君との時間。そんな日々が終わりを告げて
からもう5年が過ぎた。
君は雨の日が好きだった。お気に入りのピンクの水玉模様の傘をさして嬉しそうにはしゃぐ笑顔は
子供みたいにあどけなかった。
昨日街で、君と同じ傘の子を見た。まさかと思って振り返ったそのとき、時が止まった。
気がついて、近づいて、目が合って、すれ違った。
離れてから振り返って、笑顔で駆け寄って抱き合った。
君と離れて初めて自分が弱いって事が分かって、泣きそうになったけど堪えた。
久々の再会を懐かしむため、僕らは近くの喫茶店に入った。僕はコーヒー、君は甘い
ミルクティー。いつものお決まりだった。懐かしい目は今も変わらず僕の目の前で
微笑んでいる。眉をひそめるその表情も指の仕草も。
あの頃と同じままだった。時の流れに消されることもなく。
ただ、1つだけ違ったのは心。あの頃の君の心は僕に向いていた。
でも、今の君の心にあるのは違う誰か。
そのとき、「友達」と言う言葉の残酷な意味を知った。
「またね!」と見知らぬ誰かに手を振って、人ごみの中へ消えていく君の手を握って、奪ってしまいたい。
なんて思って駆け出したけど、思いとどまった。
またふと我に返って、笑顔で「いつかまた会おう」といって別れた。
1週間後の雨の日。偶然のイタズラなのか、また同じ場所であの子とすれ違った。
離れてから振り返って、笑顔で「バイバイ!」と手を振った。
君と離れて初めて自分で自分を分かった気がした。
また泣き出しそうになったけど、思いとどまった。